分離唱という魔法の杖で、簡単に美しいハーモニーが自分のものになるということをこれまで書いてきました。無心になって聴くことで「気持ち良いポイント」が見つけられる、ということも書きました。気持ち良いポイント、とは物理現象論的に言えば、各パートの音の何倍かの倍音が同じ周波数となって共鳴をするポイントだと理解することができます。このあとの説明は、理解されている方は読み飛ばしてください。 純正律のCEGの和音の場合、それぞれの音の周波数の比は、C:E:G=1:5/4:3/2となることが物理の本に書かれていますね。通分すると4:5:6と簡単な整数比で表わされます。最小公倍数は60となります。ということはCの15倍音、Eの12倍音、Gの10倍音が同じ周波数となって、お互いに共鳴し合い、大きなエネルギーとなって空間に響き渡るのです。このレベルの周波数は、十分に人間が聴くことができる、いわゆる可聴周波数です。同じことがFAC、GHDの三つの主要長三和音、言い換えればC-dur(ハ長調)のTSDでも同じことが言えます。文字を並べていてもつまらないのですが、この倍音が鳴り響くハーモニーで歌っている時の気持ちよさは、言葉で表し得ないものです。この「倍音説」が、よくハモる合唱を語るときに出てくるのですが、私は低音域においても同様の現象が起きていると考えており、これも魅力を高めている大きな要因ではないかと、実感もしています。Cの1/4、Eの1/5、Gの1/6の周波数も同じとなり、繰り返し音波の節が重なりお互いに強めあって豊かな響きになっているのでしょう。山梨大学合唱団の第一回目の東京公演のLPレコードを聞くと、ホールに響いているのは倍音ばかりでなく、低音域でも豊かな響きが感じられます。以上述べてきたように、耳をひらいたハーモニーの魅力は、私たちが歌っている音域だけの響きにとどまらず、高音域においても低音域においても共鳴が起きて、広い音域にわたって豊かな響きを醸し出していることではないでしょうか。

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