このテーマで書いた第一回目の記事に載せましたが、高校の時、同じ市内の女子高校と合同で混声合唱で歌った「子等を思ふ歌」について感じたことを書きます。
変ロ長調で歌い出し、「うりはめば」(階名でソミ–ド-ラ-ソ-)と2小節歌うと突如、同主調の変ロ短調に移り「子ども思ほゆ、栗はめばましてしのばゆ」と続きます。筑前の国守として現在の福岡県西部に派遣された山上憶良が視察の途中、旅先で出された瓜を口にしたときの感動を歌ったものだと伝えられています。(万葉集巻五)旅の疲れを癒すように勧められた瓜をみて、初めはホッとして気持ちも和らいだことでしょう。口にした途端、その甘さに思わず故郷に残してきた子供の姿が浮かび、子供の喜ぶ甘い果物、これを子供にも食べさせてあげたい。でも、現実には叶うことができない望みです。その無念さが、短調に変わった旋律で見事に表現されていますね。「いずくよりきたりしものぞ、眼交(まなかい)にもとなかかりて安寝(やすい)しなさぬ」山上憶良が非常に子煩悩だったことが伺われますね。子供の姿が、瞼の裏に去来してなかなか寝付かれないという心境が歌われています。曲はこれに続いて、「反り歌」の、「銀(しろがね)も金(こがね)も玉もなにせむにまされる宝子にしかめやも」と続きますが、変ロ短調の平行調である変ニ長調の下属調である変ト長調に切り替わります。♭が6つも付くんですよね。初めて楽譜を見たときは、びっくりしました。F以外の音は全部半音下がるんだ、と考えるとうんざりです。でも、この転調が、実に気持ちの良い気分転換を呼び起こします。移動ド唱法で読めば難しいことはありませんでした。変ロ長調-変ロ短調-変ト長調と用語を並べて知ったかぶりをする積もりではありません。信時潔が、当時の日本ではまだ日の浅い西洋音楽をしっかり研究し、その理論に基づき、自らの作品を見事に開花させていることを言いたかったのです。西洋の音楽を学び、決してその中に埋もれることなく、日本古来の文化に根ざした芸術作品を創り上げていく信時潔の姿勢に感服させられます。
第五音、階名で、ソから始まり、その短三度下のミに続くパターンは、とても安定した響きで、おおらかな感じがしますね。前述した「春の弥生」もそうですし、私事ながら、母校栃木県立宇都宮高等学校の校歌もそうです。鎮魂曲として創られた「海ゆかば」もそうですね。調べればもっとほかにも沢山あるような気がします。

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