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何がきっかけだったか忘れてしまいましたが、月刊誌「致知」に載せられた記事を読み深く共感を覚え、年間購読を申し込みました。今年9月号の特集は「百術は一誠に如かず」と題して、ノーベル賞受賞の赤崎勇教授と、下村博文文部大臣の対談「奮励努力あるところに道はひらける」や、北島絞製作所社長北島貴弘氏、グランドハイアット東京コンシェルジュ阿部佳氏、京都大学名誉教授一色信彦氏等へのインタビュー等々、興味深い記事が沢山掲載されています。多彩な分野で活躍されておられる方々なので、様々な関心事に惹かれて目を通すのですが、今日は、コンシェルジュ阿部佳さんの記事から心に残った部分を書いてみようと思いました。

(阿部)そう、中でも印象的だったのは共感することの大事さです。例えば、「落とし物をした」と言われた時、普通はとにかくすぐそれを解決しようとするわけですよ。「何を落としたの」「いつまで持ってたの」って。もちろんそれは必要なんですけど、まず寄り添ってあげないとお客様と繋がらない。気持ちが合わさっていかない。まず「不安ですよね」って共感する。それをしないと、解決の仕方って本当は見つからないんですよ。(中略)
—–相手の立場に立つ、と。
(阿部)あくまでの相手の気持ちですね。相手の立場に立って考えているうちは自分なんですよ。そうじゃなくて相手の気持ちになる。これは難しいですけど、お客様はどうしてほしいか、この人の気持ちとしては何を求めているんだろうという、言葉の奥にある真意を掴むことを軸に考えていくんです。

これは、ホテルの客とコンシェルジュの場合に限らず、すべての人と人との触れ合いの中で大事なことだと思いうのです。相手の言っていることの「意味を理解する」ことは当然のことですが、それだけでは気持がつながりませんよね。相手の気持ちを理解すること、そして共感することが大事なんだということを、幾度も痛感し、実践することに努めてきたつもりです。

この記事を読んで反射的に思い出したことがあります。十年ほど前、樹脂製品プラント用設備機器メーカーに勤めて資材担当を任されていたころの話です。特殊鋼材の調達が日常茶飯事でしたが、ユーザー指定の機器を、通常納期より短い指定期日までに納入するため、或る鋼材商社に発注するのですが、通常どうりのやり方では当然間に合わないため切迫した気持ちで商社に電話してお願いしたのですが、そのとき商社の担当者から、「お急ぎですよね」という言葉が返されてきたのが、まさに干天の慈雨のように聞こえました。

一般的な取引の場合には、資材担当部門としては、必要資材を調達するために、既定の購入伝票に「品目・仕様・数量・納期」などを記入して購買担当部門に回せば済むのですが、緊急を要する時だからこそ、資材担当責任者から商社へ直接依頼するわけです。その辺の事情を汲み取り、発注者の困っている状況に共感して、自分の立場で出来る限りの協力をしようという気持ちが、前述の「お急ぎですよね」の言葉に表されていたと私には聞こえたのです。こういうコミュニケーションがあればこそ、お互いの信頼関係が一層堅固になり、また次もこの商社にお願いしようということが繰り返されるのだと信じています。この出来事は、十年たった今も忘れることが出来ません。

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