書棚を整理していて、だいぶ前に買って読んだ「松下幸之助一日一話」を手に取り、もう一度読みたくなりました。買った本は2007年にPHP総合研究所から発行されたものですが、後付けには、「1981年に刊行されたものを再編集したもの」と書かれておりましたが、さらに一日一話それぞれの出典をたどると、古いものでは昭和29年(1954年)というものもあります。ところが、それぞれ書かれている内容は、全くといっていいほど古さを感じさせず、今日にも十分通ずる内容が書かれており、あらためて松下幸之助のすごさに感心した次第です。(誤記訂正:一行目2077年は、2007年の間違いでした。謹んでお詫びして訂正いたします。)

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たとえば、「5月2日」の「カメの歩みの如く」
「カメの歩みというのは、一見のろいようだが、私は結局はこのあせらず、騒がず、自分のペースで着実に歩むというのが、一番よいのではないかと思う。手堅く歩むから力が培養されてゆく。逆にパッとやればどうしても手堅さに欠けるから、欠陥も出て来る。だから見たところでは非常に伸びたようだが、あとであと戻りをしなければならないということも起こってくる。ウサギのカケ足では息が切れる。ハヤ足でもまだ早い。一番よいのはやはりナミ足で、カメの如く一歩一歩着実に歩むことではないかと思う。人生航路だけではない。事業経営の上でも、大きくは国家経営の上に於いても同様であろう。」(初出:昭和39年1月1日付日本工業新聞)
生まれつき弱いからだを持ち、丁稚奉公から始まり、自転車用ランプを作って売ったり、尋常ではない苦労を重ねつつも、色々考えて、工夫を重ね、人の気持ちも大事に考え、事業の発展を成し遂げたひとの経験から生まれた人生観だと思います。私も、この考え方は大好きで、その心がけで生きてきました。数多い部品を検査する場合でも、手早く行えば同じ時間でも、より多くの数検査できますが、欠陥を見落とす怖れも増えるし、部品にキズを付ける可能性も出てきます。傷が付かないように丁寧に扱いながら、欠陥の有無を確実に検査することが、部品の品質信頼性を高めるためには不可欠のことだと私は考えているのですが、なかには「速いのが美徳」「人間なんだから見落としがあるのは仕方ないさ」と考えている人もいて、私には理解できません。

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また、「5月5日」は、「断絶はない」というお話です。
「最近の若い人たちの考え方が変わってきているといえば変わってきている。そしてそこから断絶というという受け止め方も出てくるけれども、おとなと若い人の間には、いつの時代でもある程度の隔たりはあったわけである。然しそれは考え方の違いであり、断絶とは考えられない。それを何か断絶という言葉におどらされて、おとなが言うべきことを言わないというのは、非常に良くないことだと思う。断絶という言葉でみずから離れてしまってはいけない。断絶はない。しかし青年と中年、老人とではおのずと考えが違う。永遠にそうなんだ、と考えてそれを調和していくところに双方の努力と義務があると思う。」
松下幸之助は、若い人たちの考え方が変わってきているということを、事実として冷静に受け止めています。そして、時代を超えた広い目で、年代の異なる人同士の考え方の相違があることをみとめています。そして、それを「断絶」という言葉で逃げる姿勢を批判しています。逃げずに、「なすべきことをなす」というのが、他でも書かれているものが多いのですが、彼の信条でもあり、人生哲学ともいえるのではないかと思います。

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