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久しぶりに素晴らしい演奏を聴いてきました。予定していたものではなく、一週間前に突然チケットが入ったもので、会場となる紀尾井ホールも、その名前はテレビやラジオの放送でよく耳にはしていましたが初めていくところなので当日までの一週間は二重の楽しみに胸を膨らませたものでした。勤務先を17時終業後急いで着替えをして飛び出し橋本駅17時33分発の京王線特急新宿行きに飛び乗りました。通勤時間帯の新宿駅の雑踏の中をかいくぐり、JR中央線8番線ホームに時間を気にしながらたどり着くと途中駅での安全確認のためにダイヤより10分遅れた電車が入線してきたのでそれに乗り四谷へ向かう。四谷駅麹町口を出て上智大学の正門前を通り過ぎ紀尾井ホール前に着いたのが18時40分。

紀尾井ホールは比較的新しい建築物ですが、中に入ると、天井から豪華なシャンデリアが下がり、ウィーンの楽友協会を思わせるような、直方体の構造をした古典的な意匠のホールです。近代的な音響工学を駆使して設計された斬新な構造をしたホールとは違った残響があり、演奏者からの響きが真っ直ぐ飛んでくるのではなく、ホールの空間に鳴り渡るような感覚でした。o0600045012718099049

ステージに颯爽と現れたパオロ・ファナーレは、クールビズを思わせるノーネクタイにグレーのスーツを軽やかに着こなしています。プログラムは、チラシに印刷されたものとは違い、初めにトスティの歌曲を7曲続けて歌ってくれました。

≪理想~魅惑~夏の月~君なんかもう~悩み~漁夫は歌う~かわいい口もと~暁は光から闇をへだて≫

トスティの甘い調べは私の大好きな音楽の一つです。第一曲目の≪魅惑≫は、私が所属している合唱団の指導をお願いしている増田順平先生がトスティの曲を合唱用に編曲して下さり歌ったことがあるものの一つで、歌詞が良く頭の中に入っていたため、パオロ・ファナーレが歌いあげる曲の表情がとても理解しやすく、感動もひとしおです。パオロ・ファナーレの演奏する姿は、直立不動の演奏とは大きく違い、トスティが曲に込めた魂を表情豊かに、全身の動きを伴って聴衆に訴えかけてきます。その美声だけでもマイってしまうくらいなのに、こうしたアクションがまた多くのファンの心をつかむのでしょう。私がこれまで見てきたトスティの演奏は殆ど動きのないものだったので、ものすごく新鮮に感じました。ひょっとすると作曲したトスティがイメージしていたのは、こういう演奏スタイルだったのかもしれない。

続く二曲目の≪魅惑≫は、私が声楽個人レッスンを初めて受けた先生が紹介してくれて練習した曲で、≪理想≫と同様に、パオロ・ファナーレの演奏がとても理解しやすかった。伸び伸びと響く美声にトスティの甘美な旋律がとても良く合っています。良くコントロールされた強弱、緩急を自在に駆使して訴えかけてくる演奏に殆ど酔いしれてしまいます。

15分休憩の後に続くプログラムは、ベルリーニ、グノー、ビゼー、ドニゼッティのオペラで歌われる有名なアリアです。

ビゼーの≪真珠取り≫より、”耳に残る君の歌声”では、パオロ・ファナーレは声質を変えて透き通るような響きで、うっとりさせられました。パーシーフェイスオーケストラだったか聴きなれた旋律に「これがオリジナルだったのか」と私の不勉強を思い知らされました。

ドニゼッティ≪愛の妙薬≫より、”人知れぬ涙”も、感動させられる名曲ですね。この曲も、声楽レッスンで習った曲なので歌詞が耳に入りやすく、パオロ・ファナーレの演奏の見事さに聞き惚れました。

ピアノ伴奏の浅野菜生子さんの演奏がまた素晴らしかった。テノールの表現を良く支え、特にピアノ間奏のピアノソロリサイタルを思わせるような見事な演奏や、ピアノ間奏が終わりテノールの歌い出しの誘導の仕方など、テンポ、強弱などきめ細かい神経の行き届いた演奏でした。

音楽に詳しい友人の話では、声楽リサイタルではプログラムに載った曲以外のアンコールはつきものだそうですが、今日のリサイタルも、アンコールで6曲くらい歌ってくれました。鳴りやまない拍手にキリを付けなければならないので、最後に≪オーソレミオ≫が歌われて幕を閉じました。

パンフレットに印刷された、音楽評論家の文章によるとパオロ・ファナーレは日本びいきだそうで、2013年の初来日以降毎年日本を訪れています。また、来年も素晴らしい歌声を聴かせてほしいものです。

 

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