2016年8月21日の放送は、今年7月26日に亡くなられたピアニスト中村紘子の音楽会です。

今回はいつもの番組と違って、司会者は一切顔を出さず、中村紘子の生涯をあらわす代表的な映像を編集したものに終始しました。ここまで徹底した意味が分かりません。

2年前に見つかった大腸がんとの闘病生活のなかでも、何回か前の「題名のない音楽会」では、ステージに立つ体力がなかったのか、客席に座りながら、コメントを発していた姿が印象に残っています。

1944年山梨県生まれの彼女は3歳半でピアノを始めたそうです。4歳からピアノ教育家でもあったピアニスト井口愛子に師事し、1954年、全日本学生音楽コンクールピアノ部門小学生の部で全国第一位に入賞するなど、早くからその才能を認められ1960年NHK交響楽団が初めての世界一周公演にソリストとして抜擢され華やかにデビューしています。

彼女の遺した言葉をたどっていると、次の言葉に目が留まりました。『18歳で「あなたは才能があるけど、1からやり直しなさい」と言われて、それがショックで一時は放心状態になってしまいました。 「自分が今まで悲しいことも悔しいことも全て我慢してやってきたことはいったい何だったんだろうと」と。』 誰から言われたのかわかりませんが、ご存知の方教えて下さい。これがきっかけだったのでしょう、桐朋学園女子高校音楽科を中退して渡米し、ジュリアード音楽院に入り、基礎から徹底的に学び直すことに繋がります。そこには本人の自覚もあったのでしょうし、ご両親をはじめ周囲の方々の助言や指導があったのだろうと推察します。

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日本のピアニストの代名詞とまで言われるのもうなづける理由の一つとして、国内外で行なった演奏会の回数は3800回を超えるそうです。番組企画担当者が選んだのでしょうが、彼女の代表的な演奏として次の3曲が紹介されました。

♪1:ワルツ第6番「子犬のワルツ」(2004年演奏)

♪2:組曲「展覧会の絵」第5曲 卵の殻を付けた雛の踊り(1974年演奏)

♪3:ピアノ協奏曲 第5番「皇帝」 第1楽章より(2007年演奏)

わずか30分の番組で、55年にわたる彼女の演奏活動を紹介するのはどだい無理な話ですが、断片的ではあるものの番組制作担当者の意向で選ばれたのであろう映像は、彼女の個性をよく表しているものとしてとらえていいのでしょう。

あるピアノレッスン風景でした。演奏後の女生徒に対して「あなたの背中の動きは全然変わらない。ウソでもいいから聴衆を自分に惚れ込ませるのよ。それくらいの気持ちで鍵盤をギュッと掴むの。音が全然変わるでしょ。」音楽的な主観は人それぞれだと思いますが、このような指導を受けたら、きっと生徒は目が覚めるのだと思います。

番組の最後に紹介された彼女の言葉は、

「うまい人は山ほどいる。大切なのは聞き手になにを伝えるか。」

番組の外ですが、彼女の名言と言われているものをいくつか書きとめてみます。

「ピアニストはバレリーナや体操選手と同じで筋肉労働者でもあるんです。」

「譜面通りきちんと弾けていれば、一定のレベルまではいける。でも、それではやはり人の魂に響く演奏家にはなれません。」

「ピアノという楽器を弾きこなすには、たいへん高度な技術が必要です。それを習得するだけでも相当な努力が必要ですが、最終的には演奏者の思い、つまりその作品やピアノを通して何が言いたいのかが、伝わってくるかどうかを評価します。」

「最終的に一番評価が高いのは、個性、つまり「言いたいこと」を持っている人、しかもそれがロマンチックである人ですね。」

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