2016年10月2日の放送は、「武満徹の魅力を語る音楽家たち」です。yjimage

今年で没後20年を迎えると聞いて、もうそんなに経ってしまったのかという驚きを感じました。私の心の中で、今も生き生きと踊っています。

武満といえば、前衛作曲家というイメージが強く浮かび、ちょっと近寄りがたい感じがするのですが、「小さな空」の曲に包含された多感な子供心を思い出す純な大人のファンタジックな世界に強い親しみを感じます。この曲は、子供のための連続ドラマの主題曲として作曲されたそうです。今回の番組では、渡辺香津美さんと鈴木大介さんの二人のギター演奏で、今まで持っていたイメージとはまた一風変わった、新鮮な印象を受けました。0_10武満の音楽についての解説がありました。和音の展開に独特な手法が用いられており、普通四分音符一拍で同時に鳴らす複数の音を、八分音符で二つに分けてオクターブ下げて鳴らすとか、映画音楽では、音を削ること(無音で語る恐怖、など)に苦心した跡がみられるとか、「へぇー、そうだったのか」と改めて感心した次第です。

今回の放送の中で、一番印象が深かったのは、カウンターテナー藤木大地さんが唄った「死んだ男の残したものは」です。政治にも関心が深く、60年安保闘争の際には、「民主主義を守る音楽家の集い」などに加わり、自らデモ活動に参加していたという武満徹が、谷川俊太郎の詩に曲を付けた反戦歌です。私はこれまでこの曲を、通り一遍程度にしか歌った記憶がなかったのですが、戦争の愚かさ、悲惨さ、無益さを切々と歌い上げ、それだけで終わらず、輝く今日と明るい明日へつながる感謝と希望を歌い上げる実に感動深い音楽を創っていたのだとあらためて感心した次第です。0_12

藤木大地さんの演奏も素晴らしかったのですが、番組を観た後にユーチューブで検索してヒットした、本田武久さんが唄う「死んだ男の~」も、また素晴らしかった。本田さんがユーチューブの画面で飄々と歌い上げる姿の裏に、癌と壮絶な闘いを続けながら、自己の信念を貫き通した男の姿を見ることができて、深い感動を覚えました。本田さんは、2007年に右下腿に腫瘍が見つかり、闘病の甲斐なく、癌は頭蓋骨、脳、舌へと容赦なく病巣を広げ、惜しくも2012年この世を去りました。

<<< 死んだ男の残したものは

<<< 一人の妻と、一人の子ども

<<< 他には何も のこさなかった

<<< 墓石ひとつ のこさなかった

短調の重い足取りで1~2節をうたった後に、3節に入り旋律は長調に変わり、それまでの自分の周りの世界から、急に広い世界へと視野が広がり、詩に書き表された文字とは逆説的に表現された「死んだ男の」残した人類への尊い遺産が淡々と語られていく、実に意味深な歌だと思います。詩は6番まで作られており、全部歌いとおすと5分以上かかりますが、この詩人、作曲家が残したかったものを知るためには、通して歌うことをお勧めします。

7-7-7-7-7-7-7-7と7音節を8回連ねただけの単調な詩ですが、この詞に武満徹の音楽性が見事に合体し、聴く者の魂を揺り動かす音楽になっているのです。この曲を知らない友人、彼はかなり感受性が高いと私は観ているのですが、に、この詩を見せたのですが、即物的にしか捉えられなかったのでしょう。武満徹の音楽と一緒になって初めてこの曲の真価を感じとることが出来るのかもしれません。ユーチューブの動画をコピーして貼り付けてみたのですが、再生できるのかどうか不安です。

ユーチューブで「本田武久」「死んだ男の残したものは」の二つのキーワードで検索すれば閲覧することが出来ると思います。

彼の残したブログを、次のURLで見ることが出来るでしょう。

http://blue.ap.teacup.com/takehero/540.html

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