2016年10月8日、栃木県立宇都宮高等学校の音楽部OB会の演奏会に行ってきました。

演奏会といっても、聴衆を集めて行うものではなく、オーケストラと合唱それぞれのOBが集まって、普段なかなか経験できない母校の講堂での演奏を楽しむものです。酒食を共にして懇談する懇親会は別スケジュールで準備されていたのですが、両方参加する余裕がないので、演奏を楽しみ合う方に参加しました。p1020994s

宇高のオーケストラの歴史は古く、半世紀を超えるものがあるのですが、幅広い年代のOBが集まって演奏を楽しみ合うという企画は新しく作られたものです。上の写真の講堂は同窓会の募金によって昭和17年に建設されたものです。戦時下の建造物ですが、随所に美的感覚に優れた品位と優雅さのあるデザインの建物で、木造建造ですが内部に柱がなく、間口15m奥行き33mの広さがあり、今でも校内行事や同窓会行事などに使われており、我々同窓生が青春の情熱を思い出す縁となるもので大切に保存維持されているものです。講堂の建設にあたっては、建物周囲の雨落ちに、当時の在校生がリヤカーや大八車で鬼怒川から採取してきた玉石が敷かれていると、写真手前に見える石碑に刻まれています。県下有数の進学校でありながら、机に嚙り付く時間ばかりでなく、自分たちの力で本物を創り出すんだという、若者のチャレンジ精神を尊ぶ校風が感じられます。p1030018s

私が在籍していた当時(1966.4~1969.3)は、栃木県下有数の音楽指導者としてご健在でおられ、宇高での指導をはじめ数多くの後進の指導にあたられておられた故石井信夫先生が、昭和11年(1936年)東京音楽学校卒業後、山形、兵庫の高等女学校、師範学校の教諭を歴任後、戦争の爪痕がまだ残る昭和21年(1946年)に自らの出身校である宇高の音楽教諭に着任しました。目立った芸術文化が育ちにくく、「文化不毛の地」と呼ばれていた栃木県にあって、食料すら満足に手に入らない時代でありながらも、「君たちは音楽をやるんだ」と、若者たちに呼びかけていき、その年のうちに栃木県内初の合唱団を創設し、昭和25年には、宇高に県内初の管弦楽団を創設されています。楽器を買う予算も十分あったわけでは無く、ドラム缶を改造して作った当時のティンパニが、音楽部の練習用にあてられた部屋の片隅に鎮座していたのをはっきりと覚えています。音楽教諭として、教育カリキュラムの中で音楽指導をするという枠にとらわれず、「音楽をやるんだ」というかけ言葉だけでなく、そのための環境づくりにも多大な尽力をされた石井先生に、私は高校3年間の音楽の授業ばかりでなく、入部した管弦楽団においても、尊いご指導を受けられたことを大変感謝しています。p1030035sp1030033%e9%9f%b3%e6%a5%bd%e5%ae%a4%e6%a7%8b%e9%80%a0音楽室は梨大のL218教室に似た階段床構造で、天井は音響効果を考えて斜面を組み合わせた構造になっています。p1030037%e9%98%b2%e9%9f%b3%e5%80%8b%e5%ae%a4音楽室の奥に作られた防音構造の練習用個室の並びです。公立の普通高校でここまで持っているのは珍しいのではないでしょうか。校舎新築の設計に関して、栃木県に対して理想の教育環境の構築を熱心に説き続けた故石井先生の努力のたまものではないかと思います。こうした、偉大な先人の方々のおかげで、東京芸大をはじめとする音楽専門学校へ進み、プロの音楽家として活躍する人たちが育っていったばかりでなく、私のように工業技術の畑に足を踏み入れても、音楽をこよなく愛し、素人の拙い技ではありながら、合唱、独唱、器楽演奏にチャレンジし、その歓びを宝として、金は無いけれども精神的により豊かな人生を送ることが出来ているのかと思うと感謝感激です。

p1030042-sw在校生と、OB合同で、ベートーヴェン第7交響曲第1,2楽章を演奏してくれました。木造建築の講堂は音響効果も捨てがたいものがあります。OBの中には、プロの方も何人かおられ、演奏の前後に、在校生へいろいろアドバイスしていました。p1030043srp1030044-sl

オケの後に、合唱は清水脩の「月光とピエロ」より、「月夜」「秋のピエロ」を私も中に入って歌いました。

宇高音楽部のOB会が、半世紀を超える幅広い年齢層の参加者を集めているのは、石井先生の偉業を継ぎ、現在も熱心に教育指導にあたっていられる現役の先生方のご尽力もさりながら、同窓生の胸に刻まれた石井先生への敬慕の気持ちのなせる業ではないかと思います。

管弦楽部の歴史が長いのと比べるとまだ歴史は短いのですが、私の在籍中には授業の一環と、毎年の文化祭の一行事である校内合唱コンクールに向けて臨時に編成される合唱活動程度であったものが、合唱部としてれっきとした存在となり、ある団体からYouTubeにも投稿されているように、若者の情熱溢れる合唱を聴かせてくれます。

充実した一日を過ごすことが出来ました。

再来年は宇高創立140周年記念に合わせて、オケは第7交響曲全曲、合唱は「月光とピエロ」全曲を演奏するという計画です。是非、再来年も参加したいと思います。

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