2016年12月18日の放送は、「バッハの時代の楽器で聴く音楽会」です。

何回聴いても色褪せることのないバッハの音楽の素晴らしさを感じるたびに思うのですが、17世紀から18世紀にかけて活躍したバッハの音楽が現代も燦然と輝いて通用しているということに、バッハの偉大さを痛感せざるを得ない反面、バッハを超える音楽がいまだに現れていない、すなわち大した進歩をしていないのだなあという思いもします。勿論、バッハの影響を受けてその後の時代に活躍した偉大な作曲家が大勢誕生し、またバッハとは異なる感覚の素晴らしい音楽を創造して、私たちの感動を呼び起こしてくれていることを思うと、私達がバッハの時代の人びとに比べて、バッハの作品を含めて多様な音楽の楽しみに触れることが出来る幸せを強く感じます。

バッハの作品をモチーフにした様々なジャンルでの音楽を私たちは聴くことが出来るのですが、今回の放送は、古楽器、バッハが作曲した当時に近い楽器を使った演奏によって、バッハの時代の音楽の本質を探ろうという試みのようです。ゲストは、東京藝術大学大学院終了後、オランダ・ハーグ王立音楽院を終了し、鍵盤奏者・指揮者として国内外の公演で活躍するほか、舞台演出、企画プロデュース、作曲と広い範囲で活動している鈴木優人さんです。

「古楽器」というと、なんとなく両手に収まるぐらいの小さい楽器を思い浮かべてしまいそうですが、「バッハの時代の楽器」と言えば、その代表となるものは何といってもパイプオルガンでしょう。この楽器を製作する規模の大きさを考えると、洋の東西を問わず、教会・寺院・寺社に集中する財力が、ただならぬものであることは間違いないようです。

♪1.「トッカータとフーガ ニ短調」より「トッカータ」  冒頭の、衝撃的な旋律と響きは、映画やテレビドラマの中でよく使われているので、音楽にそんなに詳しい人でなくても知られている部分ですね。バロックというと古めかしいイメージがつきものですが、この曲を聴くと、まったく古めかしい感じはしません。番組の中では「バロックじゃなくてロックですね」なんて冗談が出るくらいです。

♪2.「ゴルトベルク変奏曲」より アリア、第1変奏   バッハから音楽の手ほどきを受けたヨハン・ゴットリープ・ゴルトベルクという人が、不眠症に悩むヘルマン・カール・フォン・カイザーリンク伯爵のために、この曲を演奏したという逸話から、「ゴルトベルク変奏曲」と呼ばれるようになったと知られていますが、当時ゴルトベルクは14歳の少年であり、高度な技術を必要とされるこの曲をゴルトベルクが演奏したという逸話には懐疑的な見方が多いということです。チェンバロを鈴木優人さんが弾いてくれました。チェンバロという楽器について、その構造を調べてみて驚きました。

上図の⓵の鍵盤の左側を押し下げることによって、㉔を支点として鍵盤の右側が上がり、⑰ジャックが押し上げられます。この時にジャックに取り付けられたプレクトラム(爪)が、⑧弦を弾くことになり、その振動が⑭響板に伝わり、チェンバロの音として聞こえてくるのです。日本の琴の弦が爪で弾かれて音を出すのとよく似ていますね。ここまでは驚かなかったのですが、ジャックが上昇するときに弦を弾くのであれば、上昇したジャックが下降するときにも弦を弾く、つまり2回音が出るのではないかと思いきや、複雑な仕掛けがあるのです。ここでは図は省略しますが、ジャックは単純な部品ではなく、爪を支えている部分はタング(舌)と言って、ジャックが下降するときには、弦を弾かないように爪の位置がずれるようになっているのです。そして、ジャックが下に降り切ったときには、ジャックの上部に取り付けられたダンパーが弦の上に乗り、弦の振動を止めるようになっているのです。このダンパーの動作は現在私たちが見るピアノのダンパーと同じですね。この発音原理を見ると音の強弱を大きく加減できるようになったピアノのように音の強弱の幅は大きくはとれませんが、鍵盤を叩く速度によって、弦を弾く瞬間の速度も変わるはずなので、わずかながらもチェンバロでも音の強弱はありそうな気もするのですが、そもそもチェンバロそのものから出せる音の大きさが、弦の構造、弦を弾くストロークの大きさ、弦の張力などからして小さいものだからどうしても小さな音しか出せないので、18世紀初頭に、グラべチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ(強弱を自由に出せるチェンバロ)が開発されるという流れになったのですね。

♪3.「ブランデンブルク協奏曲」 第5番

第1、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスと5人の弦楽器奏者、鍵盤楽器チェンバロ、木管楽器フラウト・トラヴェルソの合計7人のアンサンブルとなると、響きも格段に豊かになります。テレビのスピーカーを通して聴くので実際の響きがどんなものかが分かりませんが、チェンバロの独奏と比べたら俄然豊かな響きとなり、音楽表現も幅が広くなってきていると思います。弦楽器も、バッハの時代のものと云われていたので注意してみると弓の形が近代のものと違っていることに気が付きました。腕木の反りの方向が近代のものとは逆で、糸の張りを強くすると、腕木の中央部分が糸とますます離れていく方向の反っています。当時の腕木の加工技術からして、それほど強い張りは不可能だったのでしょう。楽器を弾いた音も柔らかいものを感じます。♪4.管弦楽組曲第3番ニ長調 第2曲「エア(アリア)」

「G線上のアリア」としてよく知られている美しい曲です。河村さんがチェロで弾いてくれたあの名演奏が心に残っています。

作曲家J.J.クヴァンツの言葉に「バッハはオルガン芸術に最高の完成度をもたらした」とありますが、オルガン芸術だけでなく、管弦楽曲、その他の器楽曲幅広く当時のバロック音楽に革新をもたらした偉大な芸術家ではなかったかと思います。

 

 

 

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