2015年から2年間にわたって、雑誌「音楽の友」(音楽之友社)に連載された「対談・脱力の極み」のタイトルで、トップアスリートをはじめとする24人の著名人との対談が紹介されました。この対談を小山実稚恵さんなりに振り返って、印象に残ったことや、共感したことなどをまとめた本が今年5月に(株)KADAKAWAより出版されました。

私は手に取る前までは連載記事を再編集したものくらいかなとおもっていたのですが、とんでもない。この対談をとおして彼女の心に残ったことが、あらたに綴られているのです。表紙に示されているように、梶山寿子さんという文筆業専門家が構成・編集をされたのでしょう、とても文章を書く専門家でないピアニストがここまで見事に書けるとは思えないほどの出来だと思いました。余談はさておき、前項でも書いたように小山実稚恵さんの素敵な人柄が、一層鮮やかに浮かび上がってきました。

本著書のサブタイトルに「スイートスポットを探して」とあります。彼女は仙台に生まれ盛岡で育っています。雄大な自然に抱かれ、緩やかなリズムの中での暮らしとともに、スキースケートといったウインタースポーツを日常間近に少女時代を過ごしたことが、彼女自身の言葉にもありますが、彼女の感性に大きな影響を与えているのでしょう。

写真やインタビューなどの映像で見る優しい笑顔、はにかむような語り口からは想像しにくいのですが、小学生のころから鉄棒、スキー、スケートといったアウトドアスポーツに親しまれ、スポーツ観戦にも興味を持たれているようです。「スイートスポット」というスポーツ界でよく使われることばが、ピアノにもあると彼女は考えています。一流のアスリートたちがどのようにスイートスポットをとらえているのだろうという思いが、この対談につながっているようです。

第1章 雪と氷とピアノ  対談者(敬称略、以下同様):原田雅彦 荻原健司 岡崎朋美

第2章「好き」が自分を動かす 対談者:高橋尚子 大竹しのぶ 野村萬斎

第3章 心と体の脱力 対談者:工藤公康 奥野史子 羽生善治

第4章 体を意識して、軸を極める 対談者:小林寛道 熊川哲也 山崎直子

第5章 12年のピアノとの旅

終章 想いを傾ける 対談者:日野原重明

対談を通して彼女の心に残ったことなどが綴られていますが、その内容をここで紹介するのは控えさせていただくとして、対談の内容が流石に専門家ならではと思わせる、真理を突くようなことが多いのに驚きました。皆様にも是非読んでいただきたいと思いました。おまけですが、ひとつ面白いと思ったのが、彼女の感性で捉えたそれぞれの対談した相手を作曲家にたとえたイメージが、章末に短く綴られていたことです。皆さんの中にも、きっと同感される方が沢山いらっしゃると思います。

原田雅彦(ストラヴィンスキー)荻原健司(ハイドン) 岡崎朋美(メンデルスゾーン)

高橋尚子(ウェーバー) 大竹しのぶ(シューマン) 野村萬斎(メシアン)

工藤公康(チャイコフスキー)奥野史子(クララ・シューマン) 羽生善治(モーツァルト)

小林寛道(シェーンベルク) 熊川哲也(リスト) 山崎直子(バッハ)

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