このところ、すっかり小山実稚恵さんの、ピアノに対する取り組みを通して感じられる彼女の人柄について、もっと知りたい、もっと聴きたいという思いにかられています。私が学生の頃は、インターネットの様な便利なツールがなかったので、同じような思いに駆られても、山梨に暮らす金のない学生にとって入手できる情報にはおのずと限りがあり、フラストレーションが募るばかりでした。ところが、今やインターネットを駆使して、情報源がまともなものであることの確認を怠らなければ、それほどお金をかけずとも処理しきれないほどの知りたい情報を集めることができるのです。勿論、知りたい情報に関しては、情報が自然に湧いて出てくるものではなく、知りたい対象がそれなりの活動をこなし、情報源となる組織なり人が情報を発信してくれているおかげなので、こうした社会構造なり、技術の発展には感謝するばかりです。

話が横道にそれてしまいましたが、小山実稚恵さんが精力的に活躍なさっている賜物に違いがないのですが、ネットで検索すればするほど沢山の情報に触れることができました。前にも書きましたが、音楽家が多くの人々を感動させることができるのは、演奏そのものは当然のことながら、演奏そのものとは別の面で現れるその人の人間性によるところが大きいのだと常々感じています。当然、その人間性が、その人の音楽にも表現されてくるわけで、崇高な精神に基づいた音楽が、聴く人の心を揺り動かすことにつながるのだと思います。こう硬い言葉を並べてしまうと、一種近寄りがたい距離感を持ってしまいそうですが、全くそんなことはないようです。私はまだネットを通した映像、言葉しか知りませんが、むしろ優しく人間愛にあふれた人柄が隅々から感じ取れました。

クラシック音楽情報誌「ぶらあぼ」2016年4月号に掲載された記事のタイトルは「小山実稚恵(ピアノ)「ウィーンの名手たちと『皇帝』で共演できるなんて最高に楽しみです」」この記事は、かの自動車メーカー、トヨタが社会貢献活動の一環としてウィーン国立歌劇場の協力を得、2000年より開催している「トヨタ・マスター・プレイヤーズ・ウィーン」で、ウィーン国立歌劇場、ウィーン・フィルのメンバーを中心に、ヨーロッパで活躍する精鋭が集結する30名編成のオーケストラと共演する、ベートーヴェンの『皇帝』について書かれていました。

彼女は、同オーケストラとは2012年にチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番、2013年にベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を演奏して、その時の体験が胸の奥深いところに感動の泉として残り、その泉が次なる湧水を生むことになったと書かれています。彼女の言葉がすごく印象的です。「このオーケストラのメンバーは、全員がソリスト級の凄腕の持ち主。各々が自身の演奏に責任を持ち、アンサンブルの妙を心得ていますから、ピタリと合います。(中略)ベートーヴェンの協奏曲4番で共演した時に、あまりにも心が高揚するオーケストラの演奏に感動し、次に共演する機会があったら、ぜひベートーヴェンの『皇帝』を演奏したいと思ったのです。それが実現し、もう”死にそうなくらい”楽しみです」

「小山実稚恵さんは感情豊かに話をする人だが、決して声高に物をいう人ではない。しかし、このトヨタ・マスター・プレイヤーズ・ウィーンとの『皇帝』の話になると、声のトーンが一気に上がった。」(取材:伊熊よし子)

小山実稚恵さんは、ピアノ・ソナタ、室内楽、協奏曲などベートーヴェンの作品を演奏していますが、「すべての作品がベートーヴェンそのもの」だと力説しています。「長年いろんな作品を弾いてきましたが、今やっと自分の心とからだが一致し始めてきて、それが演奏に繋がってきているような気がします。もちろん音楽家は一生勉強ですが、ベートーヴェンに対する思いはとても強く、濃密になってきました。内臓が動かされるような、魂が揺さぶられるような作品のすばらしさをいかに表現することができるか、それを日々考えています」

『皇帝』の第2楽章はロマンにあふれ、幻想的で神秘的なまでの美しさを備えた緩徐楽章ですが、彼女はその終わりから終楽章に移る部分にたまらなく魅了されるといいます。

「深遠な森の中に入っていく感じで、何かを模索している。それがたまらなく美しい。そして前進する音楽に繋がっていきます。それを皆さんに楽しんでいただきたいですね」

この記事に書かれた演奏は既に終わっているので、もはや実際に聴くことはできませんが、なんとラッキーなことに来年2月24,25日と連続で小山実稚恵さんの『皇帝』を聴かせてもらえることになったのです。場所は24日が立川市、25日が瑞穂町。プログラムは両日とも同じで、ベートーヴェン「エグモント序曲」、ショパン「ピアノ協奏曲第1番」、ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第5番『皇帝』」です。曽我大介指揮 東京オーケストラMIRAIとの共演です。演奏する場所は変わりますが、同じ曲目を同じ演奏者で2日続けて聴くなんてことは滅多にあることではなく、それぞれどんな感動が味わえるかとても楽しみにしています。

 

 

 

 

 

瑞穂町スカイホール

 

 

Follow me!