小山実稚恵さんが弾くピアノの音がすんなりと私のハートに馴染んでくる訳が、このインタビュー記事を読んでなるほどと納得できました。第一生命ホールを拠点として、音楽活動を通じて地域社会に貢献する認定NPO法人、トリトン・アーツ・ネットワークが2016年度に発行したアーティスト・インタビュー「小山実稚恵 室内楽の魅力ブラームス第5回~音楽家たちとの友情Ⅱ」という記事です。

 

 

アルティ弦楽四重奏団(ヴァイオリン 豊嶋泰嗣 矢部達哉 ヴィオラ 川本嘉子 チェロ 上村昇 1998年 京都で結成)との共演に関して話されています。

「アルティ弦楽四重奏団としては初共演ですが、メンバーの皆さん4人とは、それぞれ昔から演奏してきました。豊嶋さん上村さんとは本当に久しぶりの共演ですので、大変楽しみです。矢部さん川本さんとは、いろいろなところで共演の機会があります。矢部さんとは、東京都交響楽団のコンサートマスターとしてご一緒することも多く、昨年の私のデビュー30周年記念演奏会でも共演していただきました。今回、皆さんと演奏させていただけること、本当にうれしく思います。」矢部達哉さんが、上記演奏会の後、「小山さんは、演奏中に自分が考えていることがお見通しだ」と感嘆していたと話していたことについて「矢部さんの音を背中越しにお聴きするわけですから、もちろんわかりますよ。矢部さんはコンサートマスターとして演奏される時、とにかくすべてが見えていらっしゃる。すべてを全身で感じる、すごい感性をお持ちだと思います。「別の選択肢もあるけれど、今はこちらの方がいいから、コンサートマスターとしてこう演奏しよう」と瞬時に判断して演奏されていることが、弾きながら私にもわかるので感激するわけです。テレビで、天才的な卓球選手、伊藤美誠ちゃんの試合を見ていると、彼女の集中している時の目と矢部さんの目が私の中で重なってしまいます。相手をよく見ていて、勝負強いでしょう?ここぞ!という時にもの凄く集中して、冷静に状況を見極められる。凄いです。」

福島県いわき市にある「いわき芸術文化交流館アリオス」で発行している「アリオスペーパーvol.0.8」(2008年2月28日発行)に、こんな面白い記事を見つけました。アリオス大ホールで行われる4月13日のコンサートに先立って写真家平間氏により撮影会が行われたのですが、その時の様子。

「弾き始め、撮り始めると、2人とも自分の世界に没頭しているように見えましたが、座り込み撮影する平間さんの素足は、音楽にノッて動いていました。演奏する小山さんも平間さんのシャッター音を聞いていたのだそう。想いを込めた「この1音!」という時に、必ず同じタイミングでシャッター音がして、「ああ、平間さんも同じように心で音楽を鳴らしているんだ」と感じられたそうです。

演奏会の本番前ですから、若干気持ちに余裕はあるのでしょうけてれど、私など凡人は演奏なら演奏にすべての神経が集中してしまい、周りのことにまでとても気を配る余裕など無くなってしまうのですが、小山さんには人並でない神経が張り巡らされているのだなあと感心してしまいます。

この記事とはまた別のインタビュー記事で読んだのですが、コンサートにおける客席の反応について書いてありました。演奏が終わった後の拍手の大きさで、反応を図る演奏家が多いけれども、小山実稚恵さんは、演奏中の客席の様子を感じながら、それが自分の演奏の出来栄えにもつながるというようなことが書いてありました。

まさに、演奏者と共演者、聴衆が一体となって、一期一会の音楽が繰り広げられる素晴らしい世界だとは思いませんか?共演者あるいは聴衆がどういう思いをもってこの音楽に参加しているかということを、常に感じながら、自分はそれに対してどう応えていくことが最良なのかということを自問自答しながら音楽が出来上がっていく。私は、これこそ究極の音楽ではないかと思うのです。小山さんの言葉の端々に、究極の音楽を目指して精進していこうとしている心が感じられ、彼女の今後の益々の発展を祈念したいと思います。

音楽はある意味では、至高の世界だからこそこうしたこころみが実践されるのかもしれませんが、私は音楽に限らず、私達の日常生活においても当てはまることではないかと常々思うのです。数人のグループで仕事をするときでも、各人のやるべき基本的な役割は決められますが、やるべきことをやるのは最低の条件ですが、お互いの動き、表情、仕事の進捗に気を配り、グループの仕事の流れをより良いものにしていくという心掛けが、社会の一員として求められていることではないかと思うのです。

Follow me!