ケント・ギルバート氏の名前を知っている日本人は多いと思います。テレビ番組にゲスト出演者として法律の専門家の立場で、様々な問題に対してのコンサルタントとして発言されていたように記憶しています。だいぶ前の話なので、何年前だか思い出せなかったのですがプロフィールによれば、テレビ出演は1983年からということなので、もう30年以上も経っていたのには驚きました。

PHP文庫、PHP新書、角川文庫などから数多くの本を上梓されていたので、中身を深く吟味する前に、どんな観点を持って日本のことが書かれているのだろうと興味をもって読んでみました。

書のタイトルにある「愛国心」ということについて、著者が力説しているのは、日本人にとって「愛国」という言葉には、誤ったイメージが植え付けられているのだろうということです。

その誤ったイメージとは、アメリカのGHQが終戦後の日本に対して徹底的に行った洗脳工作(マインドコントロール)、WGIP(ウォーギルトインフォメーションプログラム)すなわち、「日本人に戦争責任の罪悪感を刷り込む宣伝計画」の効果がいまだに沁みとおっていて、その呪縛からいまだ解き放たれていないというのです。右翼の街宣車が「愛国」の文字を大きく掲げて、街中を走り回る姿が脳裏に焼き付いているのは私だけではないと思います。そうした状況から「戦争」と「愛国」の言葉とが結びついてしまって、「愛国」いう言葉を口にするのが、いつしか憚られるようになってしまった。著者の言葉によれば、WGIPで洗脳工作を始めたのはアメリカであるけれども、1951年にサンフランシスコ講和条約に調印し、占領軍が去った後は、日本は独立国の主権を回復した状態であったにもかかわらず、それでもなおWGIPの基本方針を守り続けた。それを行ったのは教育現場やマスコミにいる日本人自身であり、政治家もそれを問題視することなく、長年放置してきたということなのです。そういわれてみると、たしかにそういった面があるかもしれません。

私が不思議に思うのは、こうした主張が、日本人ではなく、アメリカ人であるケント・ギルバート氏から発せられているということです。公権を持った政治家ではない、一人の知識人であるケント・ギルバート氏がこうした意見を力説している理由を思うと、かなりの親日家と解釈するのが妥当なのか、いや、超大国アメリカを背中にしょった親心と解釈するのが妥当なのか、受け取り方は人それぞれだと思いますが、この本を読み進めていくと、日本人の私が不勉強なのを恥じるところが大いにありますが、なるほどそうなのかとあらためて感心するほど、素晴らしい国、日本を賞賛する沢山の記述を読んで、前者に違いないという確信を持ちました。

この本を紹介するにあたって、そのさわりだけでも一部引用させてもらおうかなと思ったのですが、どのページを見ても、紹介したい言葉が連綿として出てくるので、正直なところ私の力では、一部をかいつまんで紹介することができませんでした。私は出版社や著者の回し者ではありませんが、是非、この書を一度手に取って読んでいただければ、著者が言わんとしているところに共感していただけるだろうと確信しています。

敢えて、拙い言葉を恥じながら一部を取り上げてみたいと思います。第2章で、愛国心を支える「豊かな言葉」と題して、日本語の奥深さ、「やまと言葉」という宝石箱、もの悲しい「防人歌」の美しさ、驚くべき「百人一首」のレベルの高さ、識字率の高さが「日本語破壊」を食い止めた、等々の小見出しを掲げて、日本語の持つすばらしさ、その言葉を育んできた日本の文化について綴っています。氏のあまりの博識さに驚かされます。

第4章では、日本という国にとって天皇の存在意義について綴っています。「私が星条旗というアメリカのシンボルを神聖なものと感じるように、日本の方々も国の象徴としての天皇に、深い神聖さを感じているのでしょう。」象徴として感じるとはどういうことなのか考えていくとなかなか説明するにも難しいところがあると思いますが、天皇の存在意義を理解して尊重することができない人物が日本の政治を牛耳ることは、大きな間違いではないかという気がします。

一六代仁徳天皇の「民のかまど」という話を、私は恥ずかしながらケント・ギルバート氏のこの本であらためて知りました。「ある日、仁徳天皇が遠くを望み、炊事の煙が立っていないことに気づき、「以後3年税金や課役をやめ、民の苦しみを軽減するように」と命じます。宮殿は垣根も屋根も崩れて雨漏りがする始末でしたが、それでも税金は取らず、3年後に再び遠くを見渡し、かまどの煙が沢山上がっているのを見て、「私は富んだ。もう憂いはない。」とおっしゃり、「国とは民をもって本とするのだ。民が貧しいのは私が貧しいことであり、民が富んでいるのは私が富んでいるのだ」と。」こうした、おもいやりの心が日本人のすべての根底に連綿と受け継がれてきているのでしょう。

東日本大震災では、世界を驚かせたことがありましたね。大きな混乱のさなかに、パニックや暴動、略奪や火事場泥棒がほとんど起きなかったということです。日本人のおたがいを思いやるこころ、秩序を尊重する心に私も同じ日本人の一人として感動させられました。米ABCニュースの女性リポーターは、被災地を取材中、被災した一人の男性からおせんべいを手渡され、「あなたこそ食料が必要なのに・・・」と繰り返した後、涙ぐんで絶句せざるを得なかったということ、極限の環境下でも他者を気遣う日本人の国民性は、感動を呼びます。

とにかく、この本をぜひ多くの人に読んでいただきたいと強く思いました。

著者の言葉の極め付きが「まえがき」の最後に書かれていました。

「本書を最後まで読んでも「私はどうしても日本への愛国心を持てない」という日本人がもしいらっしゃったら、ぜひ、自分が一番好きな国に移住や帰化することをお勧めしたいと思います。」

 

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