2018年2月24日 東京都立川市の「たましんRISURUホール」で催された小山実稚恵さんのコンサートを聴かせてもらいました。

ステージから5列目の中央よりやや左の席です。演奏者との距離は10mにも満たないくらい。こんなに間近で演奏する小山実稚恵さんを見るのは初めてなので、演奏前からワクワクしてしまいました。

ショパンの協奏曲。オーケストラの序奏が始まるや、小山さんは目をつぶりながら、やや上向き加減にした顔をオーケストラが奏でる音楽の節目節目に合わせて振るわせながらオーケストラと一緒に音楽を創っているようでした。ピアノの演奏に一区切りがついて、鍵盤から手が離れても、体全体を音楽の流れに合わせて律動させているのです。

演奏開始から終わりまで、このような姿勢で音楽に打ち込むピアニストを、私はこれまで見たことがありませんでした。当然のことながら、ピアノとオーケストラは、息がピッタリ合った演奏を繰り広げていきます。私の頭の中にあるピアノ協奏曲の演奏では、ともするとピアニストが独走して、そこにオーケストラの演奏が付随するような印象を受けることが多かったのですが、目の前に展開されている演奏は、全く違いました。私の知るかぎりでの小山さんの人柄、控えめでありつつ、自己の信じるものに全身全霊を投げうって、その実現に向かって邁進するという姿そのものの演奏です。

ふだんの穏やかな、優しい表情からはとても想像できない迫力がひしひしと伝わってきます。鬼気迫る、と言っては表現が適切でないかも知れませんが、とにかく凄いエネルギーを感じました。

ショパンとベートーヴェンのピアノコンチェルト、この2曲を演奏するというだけでも卓越したテクニックが求められますが、彼女が弛み無く続けてこられた努力があるということを確信しますが、そのテクニックを活かして、ショパンなりベートーヴェンが書き残した音楽に込められた魂に、一歩でも近づけるように精進を重ねていられるように思います。演奏家の中には、数々の名曲をテーマに、自己を表現しようとしていられる方も沢山いるようですが、私は小山さんの演奏から感じたのは、そのタイプとは違い、自分を前に出すというより、作品を創った作曲家の魂の中に自分が少しでも深く入り込むことができるように努力しているのだろう、ということでした。

2大コンチェルトの演奏が終わり、鳴り止まない拍手に応えて演奏してくれたのは、ショパンのノクターン、作品9-2でした。激しい情熱を表現した2つのコンチェルトとガラリと曲想が変わる演奏ですが、「ショパン弾き」という呼び名もある小山さんならではの選曲なのかもしれません。

演奏がすべて終わって、会場ロビーで行われたサイン会の長蛇の列に並びました。場内アナウンスで「CDをお買い上げの方にはサインを」とありましたが、持参した小山さんの著書「点と魂と」にサインをしてもらいました。サインをもらう前に、事務局の方にその著書を差し出したところ「この前、お会いした方ですよね」と言われたのにはびっくりしました。小山さんにサインを頂くときに、感想を述べたあと「明日の瑞穂町でのコンサートも聴かせていただきます」と伝えたところ、小山さんは、恐縮する顔をしていました。

翌日、2月25日、立川市の北西10㎞に位置する、東京都西多摩郡瑞穂町にあるビューパーク・スカイホールで、24日と同じメンバーによるコンサートを続けて聴きました。しかも、プログラムも同じです。普通、2日続けて同じコンサートを聴くなんて贅沢は考えられないのですが、「宝くじ文化公演」といって、宝くじの収益金からの助成金を受けて特別価格2000円だからこそ実現できたのです。意図して2日続けて同じ演奏を聴こうとしたのではなく、チケット申し込みの時、「特別価格だから売り切れるかもしれない」という恐れがあったため申し込んでいたのが、両方とも当たったので「折角だから」と、両方聴くことにしたのです。

24日のコンサートでは、前述したように、小山さんの演奏する姿に感動する面が大きかったのですが、2日目のコンサートでは、音楽そのものを感じる面がより大きくなったように思います。24日と比べ、座席が11列の右端で、扉のすぐ横という、好ましくない席だったこともあり、聴覚神経に置くウェイトが増したからかもしれません。唯一、救いだったのは、小山さんは全曲通して暗譜で演奏するので、譜面台が邪魔をしていないため、遠いけれども小山さんの表情を見ながら演奏を聴くことができたことです。

ショパンのコンチェルト第1楽章の第2主題の甘くせつない旋律が深く胸に沁みました。また、終楽章のエンディングの盛り上がりが圧巻でした。小山さんも、その盛り上がりの出来栄えにご満悦だったのか、曲が終わった瞬間、会心の笑みを浮かべていたのがとても印象的でした。

演奏終了後に、ロビーで販売されていたCD,ショパンのコンチェルト1番と2番を買い求め、サインをしてもらい、握手までお願いしてしまいました。昨年暮れの相模原でのコンサートに続き、立川、瑞穂町と、すっかり「追っかけ」になってしまいました。

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