おもちゃ病院まちだの素晴らしいドクターの方々から、いろいろ学ばせていただいてほぼ一年が経ちました。待望の研修旅行で11月7,8日と長野県諏訪市へ行き、第1日目は日本電産サンキョー㈱(旧三協精機)で、見学およびオルゴールづくりの体験にプラスして、おもちゃ病院まちだのお客様から「ぜひ治して欲しい」と頼まれていた三協精機製「オルガニート20」を内蔵した「MR.RHYTHM」と銘うった陶器製の黒人ピアニストが演奏する姿を象った、おもちゃというよりも、立派な置き物然としたものの修理が目的です。この写真は実は修理が終わったものです、説明上、粉々になって修復不能となったカード押え軸を画面下の白布の上に並べてありますが、ピアニストの左手前方、ピアノ本体内部に見える黒い軸が交換した部品です。おもちゃ病院ドクターのSドクターが日本電産の山崎講師と連絡を取り、手筈を整えて下さり、今回の研修の一つの大きな収穫になりました。山崎講師のお話によると、この製品は25年くらい前のものだそうです。撮影した方向が変わりますが、この写真のように楽譜のオタマジャクシの頭に相当する位置にパンチで穴を開けたカードを差し込み、右手方向に見えるハンドルを回すと、カードが写真の奥方向に進み、パンチ穴に応じてオルゴールの櫛歯が弾かれ、曲が演奏されます。ハンドルを回す速さに合わせて音楽の速さも変わります。ゼンマイに蓄えられた力や、モーターの動力によって自動的になる方式と違って、手間はかかりますが、音楽の速さもハンドルを回す人の気分次第で自由自在に変わりますので、なかなか味のあるオルゴールですね。

軸が粉々になってしまった原因は、開発して間もない頃の製品で使われた材質は耐久性が十分でなく、経年変化で脆くなったことのようです。修理を依頼されたお客様が、この製品を大変気に入っておられるようなので、おそらく繰り返し繰り返し演奏したのでしょう。経年変化の要因に加えて、繰返し応力による材料の疲労も要因として加わったかもしれません。壊れるまで繰り返し繰り返し楽しんでもらえるというのは、おもちゃを作る人にとっても、私達のような修理する人にとっても嬉しい話じゃないですか。交換した新しい部品は、新しい材質で作られており、耐久性も飛躍的に向上しており、安心して使えるものだそうです。

私達がお客様からこのおもちゃの修理を依頼されてときには、粉々になった部品、そして「お宝鑑定士」に見せたら結構いい値段が付きそうな年季の入った味のある様子を見て、修復は難しいだろうなと、ほぼあきらめかけていたのですが、日本電産のオルゴール博士のような山崎講師と連絡を取った結果、修理できる望みがあるとの情報を得て、大いに期待に胸を膨らませて今回の研修に臨んだ次第です。

工業製品の場合は、日進月歩で新しい製品が産まれていて、過去の製品は、製造中止になって部品の在庫が無くなれば修理不能となり「新しい製品をお求めください」となることが多いのですが、おもちゃの世界は全く別ですね。おもちゃ病院まちだに集うドクター達の熱い想い、そして日本電産サンキョー山崎様の絶大なるご協力があって、見事に再び美しい調べを奏でることができるようになりました。驚いたことに、「オルガニート20」というオルゴールユニットは、ディスク式とカード式とがあって、現在も日本電産の製品カタログに並んでいました。勿論、様々な設計改良がなされてきてはいるのだろうと思いますが、私達外部の人間が目にすることが出来るカタログの写真を見る限りは、同じ形で今も生きているんだ、すごいなあ、と感心するばかりです。25年も前に、現在も生き残ることができる完成度の高い製品を世に出していたんだなあと、会社の技術力の高さに感心します。

カード式オルガニートについて、ご興味のある方は、こちらをご覧になって下さい。ホームページを辿っていくと驚かされることが沢山あります。曲目のライブラリには、なんと2,476曲もの曲が並んでいました。曲を選択すると、別のウィンドウが開き、曲によっては音域の異なる数種類のオルゴールを選べます。そのウィンドウにはオルゴールに関する様々な知識が得られるような動画が組まれていて、オルゴールの音色を楽しみながら、オルゴールの知識も吸収できるといった心憎い構成になっています。

順序が逆になりますが、オルゴール作りを自ら体験するひとコマもあり、普段私たちが何気なく見過ごしてしまう小さな部品一つ一つに、様々な工夫が盛り込まれていることを知り、とても良い勉強になりました。この写真は、体験学習の中で、自分たちで組み立てたオルゴールです。音の高さが異なる18本の振動片を持つ18弁のオルゴールで、曲目はあらかじめ各自のリクエストに合わせて準備しておいていただきました。櫛歯の音列は、どの曲でも使えるように共通になっているのではなく、曲に合わせて作るのだそうで、櫛歯と櫛歯をはじくピンが植わったシリンダをセットにしているのだそうです。オルゴールも自動組み立てが進んでいる製品の一つですが、今回の研修で体験するのは、①ドラム(シリンダ)・軸受けセット、②ドラム固定、③ゼンマイ入れ、④音の調整(櫛歯の噛み合い調整)の工程です。苦心したのは④の工程で、櫛歯とピンの当たり具合が、浅くても深すぎてもいけないし、しかも高音部から低音部まで偏りがなく平均して当たることが美しい音を出す秘訣なのです。手先の器用な人でないと途中で投げ出したくなってしまうような作業です。こういう細かい作業をコツコツと続けられるのも、日本人の特質なのかもしれませんね。私は、旅行した時に現地の新聞を買って読むのが好きです。現地ではどんなできごとに話題性があるのか、自分の住んでいるところの新聞とは違った地域性、雰囲気が感じられるのが楽しみです。日本電産を訪れたときに、「11月10日は、いい音の日11’いい’月(月は〇なので’お’)10(じゅう=’と’お)」という美しい音色を奏でる製品を作っている会社にふさわしいキャッチフレーズが掲示されていたのが強く印象に残っていたのですが、売店で「信濃毎日新聞」を開いたら、まさにグッドタイミングでこの新聞記事に出会い、嬉しくなりました。

おもちゃ病院まちだ 充実した研修旅行(第二日)も、どうぞご覧ください。

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