水素をエネルギー源として利用する歴史を紐解くと意外に古くから始まっていることがわかりました。詳しく調べたわけではありませんが、三菱重工業が作成したある資料によると、1970年あたりからすでにあるプラントで、ガスタービンに水素を含んだガスが活用されていました。

日本の社会においてエネルギー分野での水素を活用する意義を調べてみると、5つのポイントがあるといわれています。

1.水素が、使用時に二酸化炭素(CO2)を排出しない、地球にやさしいエネルギー源だということ。ただし、水素の製造時に化石燃料を使用する場合には、このメリットは相殺されなければならず、再生可能エネルギーを使って水素を製造する場合に、このメリットが100%活かされることになります。参考までに、様々な水素製造方法を図に示したものがあります。

2.水素を燃料電池として使う時に、電気化学反応で電気を発生させるためエネルギー効率が極めて高く、省エネの切り札となる。石炭・石油火力発電などの、これまでの発電方式では、おおまかにおよそ6割のエネルギーが無駄になっているそうです。家庭用・ビル用の定置型燃料電池では、熱と電気を合わせて供給する仕組みになっており、高い省エネ効果が得られます。

3.燃料電池自動車や、定置型燃料電池は、地震など有事の際に緊急のエネルギー供給源となり、命とくらしを守る防災機能の役割を果たすことが出来る。

4.上の図に示したように、水素はいろいろな方法で作ることができるほか、前稿で紹介したスペラ(SPERA)水素が一つの例ですが、エネルギーの運搬手段として使うことができる。ここでは詳しく説明できませんが、他のエネルギー源と組み合わせて使うことにより、お互いの特性を活かしあって効率の良いシステムを作り出すことができます。

5.日本に限って言えることですが、水素利用技術に関して世界をリードしており、以降に述べる地球上の他の国々と強調して、エネルギーサプライチェーンを組んでいく上で、リーダーシップをとることができます。資源の少ない日本にとっては、技術を供与する見返りに資源を分けてもらうという共存関係を推進する大きな力になるポテンシャルを持っていると言えるでしょう。

さて、これほど都合の良い水素は、はたして地球上にどれだけ存在するのかが気になりますね。化学に詳しくない私でも、水素という名前の通り、水の素なんだから、水がふんだんに存在することから想像できるように、沢山存在していることに間違いはありません。調べてみてなんとびっくり、宇宙に最も豊富に存在するのが水素だそうです。手が届かない宇宙ではなく地球表面で見ても、元素数でみると酸素、珪素に次いで3番目に多い元素です。質量パーセント比で見るクラーク数では、水素は質量が小さいので9番目に並んでいます。それでも、採り尽くしてしまう心配は要らないようです。

水素単体についてのお話はこのくらいにして、次に新春のニュースで取り上げられた水素の運搬方法についてお話したいと思います。


図の左側が、水素の製造元でオーストラリアや東南アジアなど資源の豊富な国々です。右側が、水素の消費国、日本と考えて下さい。水素の製造元で水素を有機溶剤の一種であるトルエンに反応させて、メチルシクロヘキサン(MCH)というものに変え、水素の消費地ではMCHから水素を取り出します。水素を取り出した後のトルエンは、再び水素の製造元へ戻されます。1立方メートルのトルエンは、理論上47kgの水素を貯蔵できると書かれていましたが、現実的なイメージが湧きませんよね。そこで、具体的なイメージを掴めるように、計算してみました。1立方メートルのトルエンは、およそ870kg。ここに47kgの水素がくっ付いて、およそ1トンとしましょう。47kgの水素って、どうなの?と気になります。水素分子1モルが2グラム。1モルの水素は常温常圧で22.4リットルだから、47kgの水素は常圧で526.4立方メートル(以下m3)となります。1m3のトルエンに47kgの水素を反応させて(これを水素化というそうです)MCHが作られるわけで、体積はほとんど変わりませんから、スペラ水素のPR記事に体積が500分の1になると書いてあるのはうそではありませんね。でも、水素を運搬するのに大気圧で運ぶことなんてありませんよね。運ぶ荷物の体積がこれまでと比べ500分の1に小さくなるかのように誤解しそうです。PRは、メリットを誇張して書くために引っ掛かりやすいので気を付けましょう。

今回のニュースのポイントは、トルエンに水素を反応させMCHとする技術、MCHから水素を取り出す技術に新しい触媒を開発してスペラ水素の実用化に弾みをつけたというところだと思います。では、実際に使う水素の量、運搬するMCHの量はどれくらいになるのだろうかと疑問を持ち探してみました。そして、それだけの量の水素(MCH)を運ぶイメージを具体化してみたいと思い、試算してみました。

通産省資源エネルギー庁燃料電池推進室で作成した資料(2014年3月26日)「水素発電について」を見つけました。これによると、ひとつの例ですが出力100万kWの事業用水素発電設備の年間水素使用量は23.7億Nm3と書かれています。一般家庭の電気使用量を3kW/世帯とすると、33万世帯分の電力を賄える量になります。23.7億Nm3の水素が体積500分の1になりますから、4.74x10E6m3のMCHを運ぶことになります。10万トンタンカーで毎週1回運ぶ量です。エネルギー供給源をこの一つに絞ってしまうと、全国の都市に電力を供給するために、タンカーが数珠つなぎになってしまいそうです。

次回には、水素社会の実現に向けて取り組まなければならない課題などについて書いてみたいと思います。

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