彼を知って、正直言って、驚きました。日本人ですら、あまり歌うことが少なくなった日本の童謡を愛し、その素晴らしさを広めようと日本国内は勿論のこと、自ら英訳して、様々なイベントで自ら歌って聞かせてくれたり、数々のCDや本を出版しています。その本の一つ、ジャパンタイムズ社から出版された「Japan’s Best Loved Songs of the Season」は、その年の文化部門書籍でベストセラーを記録しました。先人が残してくれた日本の童謡の素晴らしさを末永く残し、多くの人に歌ってもらいたいと願っている一人として、グレッグ・アーウィンの活躍を、一人でも多くの人に知ってもらいたいと思います。

略歴:アメリカ・ウィスコンシン州出身、音楽一家に生まれる。ウィスコンシン大学では音楽を専攻、ミネソタ大学へ編入し演劇を専攻した後、ハワイへ引っ越しハワイ大学へ編入、日本語を専攻し卒業に至る。ハワイ在住時、多くの日本人から仕事の依頼を受け、来日を決意、「童謡」に巡り合い、英訳する仕事を始める。翌年、ニューヨークと東京の姉妹都市イベントで、N.Y.リンカーンセンターにて、初めて自身が英訳した童謡を披露し、喝さいを浴びる。イベントのチケットは売り切れてしまうなど、アメリカにおいても評価が高く、現在もこの活動をライフワークとして続けている。

グレッグは、日本の寿司、相撲、カラオケ以外にも童謡は同じ親密度で世界へ伝達していける質の高い文化だと感じ、その文化を広めようと活動を続けています。海外に認識されていくには時間がかかるでしょうが、グレッグのその歩みは着実に実を結んでいるということです。グレッグの、この活動は「日本童謡協会」に認められ、外国人歌手が受賞することはとても衝撃的なことですが、第1回「童謡文化賞」を受賞しました。

次に、グレッグの童謡・唱歌の理解と、その想いを綴った文章を紹介します。     童謡とは? 1867年、日本が文明開化した時代、外国から音楽の先生を呼びました。ある先生は簡単な外国の歌に日本語の詩を付けました。その頃から日本人の作詞、作曲家たちは西洋風の子供の歌を書き始めたのです。このような曲は唱歌と呼ばれ全国の小学校で音楽の授業にて唄われていました。1918年、赤い鳥運動が始まり質の高い子供の歌を作る為に日本のトップ作詞家、作曲家たちが集まりました。彼らが書いた曲は童謡と呼ばれプログレッシブな雑誌『赤い鳥』に掲載されました。それらの童謡はその後、学校の教科書に紹介され日本の音楽教育の原点になりました。皆さんがご存じの童謡には、愛が溢れています。そして決して古くはない曲なのに日本文化の大切な部分になっています。

◇◇◇(その1)◇◇◇ 私は日本に来るまで「童謡」や「唱歌」について全く知りませんでした。そんなある時、当時ヒットした日本のキッズソングの英訳を依頼されました。日本の心を愛し理解していた私の訳は好評を博し、そのまま新たな楽曲の訳を頼まれることになりました。そのとき手渡された何編かの詩とテープ。仕事にのぞんだ私はその詩を英語に訳しながら、感動のあまり思わず瞳を潤ませてしまったのです。何という優しさでしょう!何と愛くるしさに溢れる詩なのでしょう!またその楽曲の何と美しいことか!私を包むやさしい旋律。それが私と童謡の出会いでした。私はそれまで日本の童謡唱歌を一度も聴いたことがありませんでした。どうしてこれ程までに素晴らしい詩や曲が、海外に知られていないのでしょう?もし世界中の人々が、日本の童謡唱歌を聴く機会があり、又それらの詩の意味を理解したら、どれ程の感動を与えることができるでしょうか。私はかつて日本の童謡が盛んに作られた時代や、その背景を調べました。沢山の童謡や唱歌を学び、そしてそれらを英語に訳し始めました。◇◇◇◇◇

◇◇◇(その2)◇◇◇ 童謡唱歌には、かつて日本のどこにでも見られたであろう、美しい自然環境が唄われています。美しい自然を愛でる心や、動植物への優しい眼差しは、子供達の素直で優しい心を育んできたに違いありません。童謡唱歌は、子供達に、それらの価値を教えたいと願う、大人たちの心をも反映していたに違いありません。そして童謡唱歌のこれらの価値観や素晴らしい芸術性は、決して日本人だけのものではなく、世界中の人々にも通じ、共有できる、普遍性を持っていると思うのです。◇◇◇◇◇

◇◇◇(その3)◇◇◇ 現在、残念なことに、古い言い回しの童謡唱歌は日本の子供たちの音楽の授業であまり歌われることがない槽です。そして童謡唱歌は海外では全くと言ってよいほど知られていません。幼い子供への虐待や彼らを巻き込む事件、歪んだ親子関係や陰湿ないじめ、自殺のニュースに接すると、悲しみで胸が張り裂けそうになります。私のこのいたたまれない気持ちは壊れゆく自然環境への想いも伴って私を駆り立てるのです。日本にはこれほど優しさに溢れた、美しく可憐な歌が沢山あるのに。大人も子供も、この素敵な童謡唱歌を聴いて、唄って、優しい気持になってほしい。そしてこの童謡唱歌の素晴らしい詩や曲の普遍的な価値を、世界の人々にも知ってほしい。私は日本の童謡唱歌に出会ってから、その素晴らしさを伝えることをライフワークと感じるようになりました。そしていつしか私は童謡の伝道師と呼ばれるようになったのです -Greg Irwin  ◇◇◇◇◇

何ということでしょう! 私は、これまで、美しい自然を愛でる心や、動植物への優しい眼差しを歌った日本の童謡唱歌の素晴らしさを理解できるのは、日本の四季折々の素晴らしい自然環境の中で育ってきた日本人だけだろうと思ってきました。グレッグ・アーウィンのこの言葉に出会って、驚きました。と同時にとてもうれしくなりました。日本の童謡唱歌を、彼なりの視点で英訳し、その数は100曲以上を数えるそうです。そのすべての楽曲を持ち前のシルキーで伸びやかな声にのせて、様々なフィールドにて披露しています。

Youtubeで検索すれば、この他にも沢山の彼の歌声とその姿を観ることができます。「日本の童謡唱歌なんだから、やはり日本語で唄わなくっちゃ」という声もあると思います。たしかに、これらの美しい旋律は美しい日本の言葉に合わせて作られたものですから、日本語で唄ってこそ、正統の童謡唱歌でしょう。でも、彼が彼独自の感性で英訳したのは、世界の人々に素晴らしい童謡唱歌を知ってもらう手段として大きな意味を持っていると思うのです。私たちだって、外国から入ってきた数多くの素晴らしい歌を日本語で唄っている例が沢山ありますよね。勿論、原曲とは全然違った意味の歌詞が付けられている例も多々ありますが、わかりやすい日本語でその曲に馴染むところに意味があると思います。さらに進んで、原曲の歌詞を調べて、それで唄えばさらに理解も深まり、愛着が増すことでしょう。それと同じように、彼が訳してくれた英語で童謡唱歌が世界の人々の耳に入り、それが童謡唱歌に親しんでもらうきっかけとなり、ゆくゆくは日本語で唄うことにつながるかもしれません。グレッグ・アーウィンの益々の活躍を応援したいと思います。

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