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パリ国立高等音楽院イヴ・アンリ教授によるピアノ・レクチャーコンサートを、妻と二人で聴いてきました。
会場はJR横浜線橋本駅北口目の前にあるミウィの7階、杜のホールで、実を言うと演奏者の名前は聞いたことがなかったのですが神奈川県で初めて導入された世界3大ピアノの一つ、ベヒシュタインのピアノで演奏されることを知って、興味津々で前売り券を買って楽しみにしていたものです。コンサートの名目もレクチャーコンサートと言うので、それも楽しみでした。
演奏する作品は、ショパン、リスト、ラヴェル、ボロディンのよく知られた作品がほとんどですが、ボロディンの「ダッタン人の踊り」は
イヴ・アンリ教授が編曲されたものとチラシに書かれており、これも興味をそそられました。
ステージの中央に置かれたベヒシュタインのフルコンサートピアノの向かって右側には大きなスクリーンが用意され、スクリーンの近くの客席にはプロジェクターが陣取っていました。教授がこれから演奏する作品をフランス語で説明する内容を、日本人女性が用意された紙を読みながら日本語で解説する形でプログラムが進行します。それと並行して、スクリーンには関連する映像(静止画)が映し出され、教授が説明する内容の理解を助けてくれました。
話が前後しますが、開演20分ほど前にホールに入ったところ、ピアノの調律をしている最中で、そこでピアノの音がただものではないと気付きました。ピアノ曲の演奏と違う調律の打鍵のせいもありますが、実に歯切れのよい、アタックのきいた打鍵音がビンビンと響いてきます。といっても決して華美なわけではなく、まろやかな響きもバランスよく聞こえてきます。チラシに書かれていた言葉ですが「ビロードのような透明感のある音色」という表現がぴったりのような気がしました。
解説をはさみながら、初めにショパンの「船歌 嬰ヘ長調作品60」「ノクターン嬰ハ短調遺作」
淀みなく流れるベヒシュタインピアノの豊かな響きにショパンの楽想がマッチし、ついつい眠りを誘われてしまいそうでした。
続いて、リストの「ダンテを読んでーソナタ風幻想曲」。ダンテの叙事詩「神曲」よりインスピレーションを得て作曲された曲です。眠気も一気に吹っ飛んで行ってしまうほどのフルコンサートピアノが会場狭しと鳴り響く「多彩なオーケストラ楽器の音色」に圧倒されました。比較的小柄に見えた演奏者イヴ・アンリ教授が全身の動きを伴って演奏する音楽を聴いて、たった1台のピアノでこれだけの響きが出せるのかと驚嘆させられました。
休憩をはさんで続けられたラヴェルの作品は「夜のガスパール」「亡き王女のためのパヴァーヌ」後者の曲はオーケストラ用に作られている曲をよく耳にすることがありますが、その前に演奏された「多彩なオーケストラ楽器の音色」に圧倒された後だったせいか、あらためて感動することもなく聴き終わりました。
プログラム最後が、楽しみにしていたボロディン作曲イヴ・アンリ編曲、歌劇イーゴリ公より「ダッタン人の踊り」です。
ポピュラー音楽にも引用されて馴染みある旋律が所々に織り込まれて実に見事に、ダイナミックな音響と色彩感に構成されて、まさに息をのむ演奏でした。
プログラムを終えても鳴りやまない拍手に応えて、アンコールにショパンの「ノクターン」と「子犬のワルツ」それとシューマンの1曲を演奏してくれてコンサートの幕を閉じました。

イヴ・アンリ:ピエール・サンカン、アルド・チッコリーニに師事。1981年ロベルト・シューマン国際コンクール第一位。その後ヨーロッパ、アメリカ、中国、日本などで広く演奏活動を行い、シューマン演奏家として定評を得る。内外の音楽祭にも多数参加。2000年半ば、サル・プレイエルにてショパンの「プレリュード作品28」をCDとDVDに録音、録画。ショパンの時代と現代のプレイエルを使用し、ショパンの生涯、そして音楽言語の深い研究、加えて1840年代の奏法を掘り下げた演奏は、注目を浴びる。

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