私が山梨大学合唱団に所属していた縁で、音感教育の権威と言われる故佐々木基之先生にめぐり会うことができ、先生から耳と心をひらいた素晴らしい音楽を教えていただき、私の人生の大切な宝物として音楽のもたらしてくれる恩恵を楽しんでいます。

その佐々木先生から、先生の恩師であるレオニード・クロイツァーという偉大な音楽家を教えていただきました。佐々木先生が書かれた「耳をひらいて心まで - 分離唱のすすめ」の中で、こう記されています。『私には誰一人として師と仰いだ先生はありませんでした。しかし、クロイツァー先生に聴かせていただいた崇高な音楽のすべてが、私の心の中に宿っているように思います。そして、私が生徒のレッスンをするたびに、私の心にその音楽が流れているのです。私のものではない、もっともっと高いところからの遥かなる音の流れであるのです。』

この言葉は、まさに音楽の本質を語っていると思います。音楽の専門教育を受けて、専門の技術・知識を持たれている演奏家、指導者は大勢いらっしゃると思いますが、音楽の本質を理解している人がどれだけいらっしゃるでしょうか。良い先生にめぐり会うこと、そして、その先生から音楽の本質を受け継いではじめて感動できる音楽に出会うことができ、その歓びを享受できるものではないかと思うのです。私自身、どれだけ音楽の本質を理解しているのかはなはだ恥ずかしい限りではありますが、佐々木先生にめぐり会うことができ、限られた期間ではありましたが、分離唱を通して耳をひらき、心を開いて音楽の本質に一歩でも近づけるきっかけを教えていただいたことと深く感謝している次第です。

山梨大学卒業後も5年ほどは、合唱団の合宿や定期演奏会に足を運ばせていただき、佐々木先生のご指導のもとで心を一つにして澄み切ったハーモニーに心を洗われる経験を何度したことでしょう。惜しむらくは、その後仕事に時間はおろか、心まで拘束されてしまうような生活が続き、合唱団と接する機会がなくなりつつありました。60歳を過ぎ、時間的余裕が取れるようになった頃に合唱団の3年後輩のご厚意により、東京国分寺の佐々木先生のご自宅で毎月1回ですが佐々木先生の深い薫陶を受けられた娘さんのご指導に導かれて分離唱を通したハーモニーを楽しむ集いに参加させていただくようになりました。

話が横道にそれてしまいましたが、前出の合唱団後輩に教えてもらった「クロイツァーの肖像 日本の音楽界を育てたピアニスト」萩谷由喜子著 ㈱ヤマハミュージックメディア刊の最後の方に書かれていましたが、東京芸術大学構内に建てられたクロイツァーの記念碑に刻まれている言葉に強烈な感動を覚えました。img_20160922_0001

「音楽は魂で感じとられるもの 音楽を理解するだけでは十分でない」

この短い言葉の中に、音楽の本質の何たるかがすべて表わされているように思いました。佐々木先生が何度も口にされていた「聴いて!、聴いて!」の言葉は、よく耳を澄まして聴くということは当然のことであり、究極は「魂を聴いて!」ということだったのではないかと思うのです。

 

Follow me!